Eri Koo Blog

元気があればなんでもできる学習帳

ミヒャエル・エンデ『モモ』を読みました

これまで何人に「読んだ?」と薦められたことかわからない児童書『モモ』。
ようやっと読みました。
少々ネタバレになるかもしれない(肝心なことは書かないけど)ので、ご注意を。

文明が発展するにつれて、いつのまにか「時間」を奪われていった大人、そして子どもたちから時間を取り戻す、モモというちょっと変わった女の子の物語。

最初の方、あまりにも直球での現代社会・資本主義な文明社会への風刺と示唆の描写に、物語に入り込めるのかなと一歩引いてしまって。
ぐっと入り込むには、読み手が大人になりきっている上に時は2020年だから、思うところがあまりにも多すぎたのですが。
けれど、とても美しい話でおもしろかった。
考える余地、日本で言う「間」や「空白」をたくさん含んでいるのが、さすが児童書であり素晴らしかった。

モモの特技は「人の話を聞くこと」その人の話に集中して、まるでその人になったかのように話を聞く。モモは何も言ったりしない。じっと聞いてるだけ。
でも、話を聞いてもらった人は、話しているうちに自分で悩みのヒントを発見したり元気になったりする。
これは今で言う「傾聴」という手法(と言うと興ざめですが)と似てる。
人がゆっくりとじっくりと話を聞いてもらえることなんてほとんどない。そして、聞くことってなかなかに難しい。
みんな自分に精一杯だから、聞いてほしい話したいわかってほしい、ばかりが心を急かす。

だから、人の話をしっかり聞ける人というのは、心が急いていない人。
自分のことばかり考えるところから脱した人。
あるいは、元々からゆったりと寛容な人(魂の年齢がそうとう高い)。

あるいは、職業的な技術として、もしくは、そうあることが目の前の人の助けになると知ってて、意図して行っている人。

モモはもちろん小さな女の子だから、前者の意図はしてない。
ただ、人の話をゆったり聞いてあげるだけで、みんないい感じになっていくのがモモ自身もしあわせで楽しい。

そんな風にモモが街のみんなと仲良くしていたら、不穏な影が近づいてくる。
時間泥棒たちが暗躍して、みんなから時間を奪っていく。
人間なら誰しもが持つ心の隙間に、甘い毒の誘惑を持ち込むのです。

もっとちゃんとした環境が与えられていたら、自分だって今とは違う立派で偉い人物になっていたはずだ。

そういう、たまにやってくる「自分の人生はこれでいいのか?」という瞬間に「いいえあなたの人生はもっともっと輝けます。時間を節約して、もっとお金を儲けて、もっといろんなものを買って、ぜいたくした生活をすればしあわせになれますよ。それこそが人生の唯一の目的なんですよ」と誘いかけるのです。

その甘やかな誘いは、資本主義、物質社会そのもの。
人がうらやむような、贅沢なモノを持ち、家に住み、高級な車に乗って。そのために顔を灰色にしながら笑顔も忘れてあくせくと働く。

大切な人たちとの心の交流も、愛情表現も、ぼんやりと月を見る時間も、ちょっとした世間話で朗らかになる瞬間も、全部捨てて。

この描写は一見極端だけれど、現代に生きてるならどこか身につまされる部分があるはず。

さて、こうやって時間を奪われた人たちをモモがどうやって助けたのか。
時間泥棒とは何なのか。
どうやって時間を取り戻したのか。

そこがこの物語の肝なのです。
なので内容は書かないけれど。

それはとても美しくきらめくような描写で、まるで銀河系に放り込まれたかのような、美しい神殿に足を踏み入れたかのような世界でした。
それでいて、冒険活劇でもあり。

結局、人にとって大事なのは友情や愛情で。
のんびりと笑っている瞬間で。
たくさんのお金やモノは、ただそれらをちょっと色付けするためだけのもの。

読んでいて思ったのは、この話よりもう一歩二歩と世界は進めているのではないかなということ。
もちろんそれは、人によるし国による。環境に左右される。
感じている世界も、実際の世界も、人によってまるで異なるのが、とっても顕著に違ってきている今だから。

けれど。

しあわせは、お金やモノじゃない。
誰かより勝っていたり、誰かに負けたりするものではない。

そんなことはもう、大前提として。
自分が美しいと思うものを生み出したり、良いものを見つけてそれが欲しい誰かに手渡したり、ステキな人と人とをつないだり。
美味しいものを提供したり、人を笑わせたり、誰かにために手を差し伸べたり。

ちゃんと、自分がどんな風だとしあわせかを知って、そうやって行動している人をたくさん見るから。
そういう人はもう、心に隙間風が吹くときがあっても、一瞬甘い誘いに気持ちが引っ張られても。
ちょっと元気を取り戻したり回復したら、戻って来ることができる。
周りにも似た人がいるから、明るい場所へ引っ張ってくれる。

まだまだ『モモ』の世界、その物語が示唆してくれることを必要とする人もいるだろうけど。
けど、そこからどんどん進んでる人もたくさんいる。

1973年にこの本が出版されて約50年が経って。
EUは推進力を失い、アメリカは世界のリーダーの座を降り、中国共産党も10年後には崩壊すると言われて。交通手段とインターネットの発達で世界が近くなったと思ったら疫病によって、世界は再び分断されて。
資本主義が、物をたくさん買うことを推し進める向きが、どんどんとほころんでいってる。
いろんな差別に対しても、それって違うよね?と声を上げられる社会になってきている(例えそれを使って儲けようと煽る人がいても)。

そんな今、この本の中身をどう受け止めるかは、とても面白いテストにもなる気がする。

ドイツで出版されたこの本は、日本でとても人気があって。世界中に翻訳されているけれど、発行部数はドイツに次いで日本が2位なんだそう。
ドイツとは同盟国であったし、勤勉で学者・職人気質、物づくりや物事の運び方に信頼がおけるなどの面で、とても日本と親和性が高い国。
そして近代における敗戦国という重い荷を背負った同士でもある。
敗戦国ゆえの、自国のアイデンティティを一旦壊されて捨てなければならなかったアイロニーのようなもの、うまく言えないけれど共有しているようにも思う。
そんな国同士で、この本が人気なのっておもしろいなと思う。

こんな風にいろんなことを考えたり思ったりする機会を与えてくれるのは、読書の素晴らしいところ。
そして『モモ』は直接にわたしの胸を打つ、好みの話でもないのに、こうやっていろいろ書かせてくれる、やっぱり世界的名著なのなだぁと思った次第です。

▼(そんなわけで)今日のおすすめ
『モモ』作者:ミヒャエル・エンデ 

モモ (岩波少年文庫)

モモ (岩波少年文庫)

 

読んでいただきありがとうございます☆祝福アレ♪

 

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