言語の話1 - 母語とセミリンガル

27ヶ国以上の言語が話せる言語学者の友人から聞いたこと。

それは、母語の大切さ。

大抵、27ヶ国語も話せると聞けば、すごいなーうらやましいなー世界中の人と話せるじゃん、と思う。かく言うわたしも、おしゃべりの第一声はそんな感じ。からの、わたしなんて英語もまともに話せないのになーという、子どもみたいなつぶやきに。
その友人が教えてくれたのが前述のこと。

言語とは、まず「言語」そのものを学習しなければならないと。
言語というものが何なのか。
言葉が何を表すのか。
その意味と使い方を知らなければならない、と。

そのためには、12～13歳まで徹底して母語を勉強する必要がある、と。

バイリンガルやトリリンガルがもてはやされるけど、それも母語がしっかりしていないと言語そのものが理解できないので、とても危ういことなのだと。
つまり、適度な日常会話が出来たとしても（「りんごをください」「はい、どうぞ」くらいはできても）、試験で何を問われているのかや、ニュースで取り沙汰されていることの意味がつかめないということが起こって来る。
12歳くらいというのは、それなりに物事や社会の認識が出来てくる年ごろ。
その年齢まで、母語で思考することや他者と会話すること、もちろん学校での学習や読書による学びを徹底することで、言語という土台が築かれる。

そんな話をしたのは数年前なのだけど。
最近、セミリンガル（ダブルリミテッド）という言葉でこの問題がクローズアップされているようで、思い出した。

セミリンガル
「二言語の環境で育ち、その両言語において年齢に応じたレベルに達していない者（Wikipedia）」

ここで思い出すのは、中学生の時にアメリカから日本に戻った帰国子女の友人の話。
「わたしの英語、もしかしたら小学生が『ねぇねぇママぁ、あたち、あれが欲しいんだけどぉ買ってよぉ～』みたいな英語なのかもしれないって思う時があるよ。だって子どもの話す英語しか学んでなかったから。この英語、大丈夫なの？っていつも思う」
この友人は理知的で、日本語で自分の考えをちゃんと伝えれるし、しっかりした仕事もしているので、セミリンガルではない。
この友人の場合、両親ともに日本人で、家庭では日本語を学んでいて、外では英語で生活していた。日本語が母語になって言語の把握は出来ていた。だから、もしかしたら自分の英語が幼い子が使いそれなのかもしれない、という可能性まで考えることができた。

けれど、もしセミリンガルだったら、その考えも及ばなかった可能性もある。

言語と思考はほぼワンセット。
だから、自我や自己、自分の考えやアイデンティティは言語で作られる。

つまり、セミリンガルの場合、思考が年齢相応に発達するのが困難かもしれない可能性がある（なので試験の問いやニュースがわからない）。

昨今、キレやすい人や情緒不安定な人、言葉よりも手が出てしまったり、過分に暴力的な人は、自分の想いを言語化できないことによるストレスがあるのではないか？と言われている。
貧困問題などで、教育が十分ではない、親もまた教育が十分に育っていなくて家庭内での会話も年齢相応に行われていない可能性がある。もちろん読書の機会もない。

自己啓発でも、心理的セラピーでも、成功哲学でも推奨されるのは、毎日日記を付けることだ。
簡単でもいいから、自分に起こった出来事や考え、感想を言語化する癖を身に着けることは、精神の安定と平和に有効だということが、数々の研究から明らかになっている。
語彙が豊富で自分の考えを言語化出来る人は、自分の感情に振り回されず、精神が安定するのだそう。

母語をしっかりと身に着けること「言語」とはそれほどまでに大事なこと。

大人になってから他言語を身に着ける人は問題はない。
けれど、子どものときに母語をしっかりと身に着けるような環境ではなかった場合、とても危険。12歳くらいまでにその土台ができていないと、そこから「言語」というものを理解するのは相当に難しいとも聞いた。
先に触れた友人のように過程では日本語、外では英語、とクッキリと場面で分け、かつ母語をしっかり学習できていると、バイリンガルになる。
しかし、難民などで祖国も言語も失われた場合、土台が消失することで、自我にさえ危険が及ぶ。
形成されていた自分そのもの（のようなもの）が、失われてしまうからだ。
あるいは、家庭での言語教育がぐちゃぐちゃであった場合、自我や自己形成にかなりの問題をはらむことになる。

言語とは、人間の根幹を成している。

言葉の話、続きます。

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